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研究内容

分子情報操作が生み出す新機能材料

 複数の化合物が混ざったものを混合物と呼びますが、一般的に化学としてはあまりいいイメージの言葉ではありません。なぜなら、これまでの化学はいかにして純粋な化合物を合成し、単離し、分析するか?に焦点があてられてきたからです。

 このような従来の考え方に対して、わたしたちは積極的に数種ないしは十数種類の化合物から成る混合物を作り、それぞれの成分単独ではなし得ることができない機能・構造・反応を作り出すこと(創発)を目指し研究を行っています。

 複数の化合物を混合することにより、化合物間の会合・離散を巧みに制御し、何層もの階層の異なる構造体をつくり、物質やエネルギーをやりとりさせ、新しい現象の発見や理解、新規機能性材料の開発を目的としています。

 究極の混合物として生物の基礎となる細胞を挙げることができます。細胞は細胞膜を仕切りとするミクロンサイズの器に入った複雑な混合物であり、その構成成分は高度に制御され、「生きている状態」を作りあげています。40億年の進化の結果である生物が作り出す豊かな機能・情報をもつ混合物には及びませんが、有機化学・高分子化学・物理化学・非平衡熱力学などの知識を総動員して、「複雑系」にチャレンジし、生命の本質に迫ろうと思っています。

1) 親油性電解質を用いたソフトマテリアルの開発

これまでの高分子電解質の研究は、主に水を中心とする高極性溶媒中で行われており、非極性環境下 (誘電率 ε<10)において高分子電解質として機能するものは存在しない。これは、誘電率の低い環境下ではイオンが高次会合体を形成し、高分子鎖の凝集が起こるためである。

溶媒別の高分子電解質

 そこで我々は、非極性環境下でも解離可能なイオン対を高分子鎖に導入することで、非極性環境下においても機能する高分子電解質として機能する新たな「親油性高分子電解質」が創製できると着想した。非極性環境下で機能する親油性高分子電解質の分子設計・合成を行い、高分子電解質としての機能を見出し、幅広い応用展開を目指し研究を行っている。

  • ACS Macro Letters 20121(11), 1270-1273. link
Macro Letters 2012

 応用展開例として、親油性高分子電解質を架橋することで、自重の数百倍も有機溶媒を吸収する有機溶媒高吸収性樹脂の開発に世界で初めて成功した。この材料は、揮発性有機化合物(VOC)や 排出油の回収、オイルフェンスなどの環境問題対策の有力な手段として期待できる。

  • Nat. Mater. 20076, 429-433. (Cover Article) link
  • Adv.Funct. Mater. 200818, 3936-3940. link
Funct Mater

我々が作製した親油性高分子電解質ゲルはわずかな溶媒組成の変化に応答して不連続体積変化を起こすことを明らかとした。

  • Soft Matter 20084, 748-750. (Hot Article) link
Soft Matter

2) クリックケミストリーを利用した Metal-Organic Frameworks (MOFs)の事後修飾&

 Metal-Organic Frameworks (MOFs)は、多様な有機配位子と金属イオンから構成される有機多孔性物質である。MOFsは、配位子の構造や配位様式の違いにより空孔を自在に設計でき、骨格である有機多孔性物質自体の持つ機能を空孔に直接反映させることができる。そこで我々は、官能基や構造をMOFsに修飾する手法として、有機配位子にアジド基を有するMOFsを形成後、クリックケミストリーにより目的の官能基や構造を導入する事後修飾反応を提案し研究を行っている。

  • J. Am. Chem. Soc. 2008130, 14354-14355. link
MOF

 

 3) 有機結晶の異方的表面を利用した複合材料の開発

 結晶構造をデザインして固体の構造、物性、反応、機能を設計する結晶工学 (Crystal Engineering)の概念が提唱されて以来、様々な有機分子の単結晶が報告されている。有機分子の単結晶は、異方性や面特異的な モルフォロジーなどの無機材料にはない特徴を有していることから、機能性材料としての利用が期待されている。我々は超分子化学の概念を取り入れて、有機結晶の持つ特異的性質と分子間相互作用を積極的に利用した新しい分子集合体の構築と固体材料への応用を目指して、研究を行っている。

  • Angew. Chem. Int. Ed200645, 4764-4767. (Inner Cover) link
  • Chem. Commun. 200634, 3617-3618.
Chem Commun

 4) 生体分子ロボットの創製

 我々の細胞の中には、現代の人間の技術では作成困難な高性能な分子機械が存在します。この分子機械は「生体分子モーター」と呼ばれ、生物共通のエネルギー通貨であるアデノシン三リン酸(ATP)を効率良く(ほぼ100%)運動エネルギーに変換するとともに、~10000W/kgという高い比出力(電磁モーターの約100倍)を発生します。私たちはこのような生体分子モーターをビルディングブロック(構成材料)とするソフトな動力システムを創製し、その動力システムを組み込んだ生体分子ロボットの開発を目指しています。  生体分子モーターは単独でも物質輸送などの機能を有しますが、その真価は生体分子モーターが集団で機能する際に発揮されます。例えば、我々の筋肉は生体分子モーターが階層的に秩序立って組み上げられた自己組織体でありますが、その集合体が協同的に機能することで、走ったり飛んだりといったダイナミックな運動が実現されています。ここには一分子だけでは実現しないような機能が発現しており、このような機能を創発と呼びます。我々は生体分子モーターの自発的な集合体形成機構や創発機能の発現メカニズムを解明することにも同時に目指しています。

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そうだ、ハーバードに行こう。

 5) Metal-Organic Frameworksを鋳型にした高分子ゲルの合成と機能

 MOFのナノ空孔を利用して、有機配位子同士を外部からの架橋剤で架橋することで、結晶1個を丸ごと高分子ゲルへと変換できることがわかりました。MOFも高分子ゲルも共に3次元的な網目構造をもつ構造体ですが、両者をシームレスに融合した材料はこれまでのありません。またMOF結晶の形・大きさを制御することで、高分子ゲルのそれらを制御することにも成功しています。ナノからミクロサイズの多面体構造を有する高分子ゲルが設計・合成できることになり、新しい材料への展開が期待できます。

  • Angew. Chem. Int. Ed201251, 10566-10569. link

 6) 高分子溶液でのLCST型相転移の分子デザイン

 感温性高分子は刺激応答性材料として、注目を集めています。中でも温度を上げることによって高分子のコンフォーメーションが変化して、溶解性が急激に悪くなるLCST型の相転移はその分子設計の難しさから、これまで両親媒性高分子(たとえばNIPAM)-水系以外についてはほとんど研究されてきていない。われわれは比較的やわらかい高分子鎖の官能基間の相互作用を部分的に切断するようなeffectorを導入し、溶媒-高分子-effectorの三成分系とすることでLCST型の相分離を起す高分子の分子デザインを明らかにすることができました。様々な媒質、温度で、巧みに分子間相互作用を利用して、LCSTで発現することのできる新しい材料の構築が可能になると期待しています。

  • J. Am. Chem. Soc. 2012134, 8344-8347. link
  • Angew. Chem. Int. Ed201352, in press.