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Link: Grad. Sch. of Chemical Sciences and Engineering
ISNA-18
研究概要 Research Themes
Contents
世界一長い炭素-炭素結合
Ultralong C-C Bonds in Hexaphenylethane Derivatives

Figure of Hexaphenylethane and DSAP
 炭素-炭素単結合は1.54 Å (オングストローム) という標準的な結合長を持ちます。しかし、結合を作ってい る2つの炭素それぞれに、嵩高い原子団 (置換基) を持つ場合には、置換基同士の反発を軽減させるため、結合長が 1.6 Å ほどまで伸長することが知られてい ます。それぞれの炭素にベンゼン環が3つずつ置換したヘキサフェニルエタンは、長い結合を持つ代表的な分子ですが、伸びた結合は結合力が小さく容易に切断 されるため不安定で、すぐに別の物質へと変化してしまいます。もしも、結合が切れそうになっても別の物質にならなかったら、もしも、置換基同士の間の反発 をもっと大きくしたら、炭素-炭素単結合は更に伸びるのでしょうか? これについて米国の研究者は、結合長と結合エネルギーの間に直線的な負の相関がある と仮定し、『1.75 Å を超える炭素-炭素単結合は存在し得ない』と予測しました。
 しかし当研究室では、ヘキサフェニルエタン型分子に関するこれまで10年間の結果をもとに精密な分子設計を行 い、アセナフテン型化合物 DSAP について-180 ℃でのX線構造解析を行うことで、この物質が 1.77 Å を超える究極までに伸びた結合を持つことを見 い出しました。 これは電荷の影響を受けない中性の化合物中で見い出された、世界で一番長い炭素-炭素結合です。私たちは、更に長い結合を持つ物質の探索を 行っていますが、そんなオリンピックのような研究は、単に記録を更新することが目的ではなく、究極の状態を調べることによって共有結合性の本質を解明した り、高度に歪んだ物質の合成過程で構造有機化学的な知見を拡張したりできる点に大きな意味があります。また DSAP を含め関連の物質は、伸びた結合の可 逆な切断にともなう色調変化 (クロミズム応答) を利用することで、表示機能などへの応用も期待されている分子群です。

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呼べば答える応答性分子:多重出入力による高機能化
Advanced Molecular Response Systems Endowed with Muti-input and Multi-output Functions

Molecular Responce Systems
 ある種の有機化合物では、試薬と混合せずとも加熱や光照射のみで化学反応が進行します。そうして生じた生成物が、もし仮に、別の温度/照射条件下で元の物質を 100% 再生すれば、熱や光などの外部刺激は、物質がとりうる2つの状態 (原料と生成物) を可逆に行き来させるトリガーとなります。外部刺激でスイッチされる2つの状態の物性 (色調、蛍光性など) が大きく異なる化合物は、実験者が加熱や光照射といった行為を行なうによって、目に見える形で相互変換の様子を観測できることから、「応答性分子」と呼ばれています。熱や光以外にも、pH や電場など様々な外部刺激を入力として反応する応答性分子が知られています。pH の違いで色の変化するものは、ペーハー指示薬としておなじみのものであり、外部刺激によって色の変化するものは、まとめて「クロミズム系」と分類されます。
 当研究室では電位の変化を刺激とし、酸化還元反応で2つの状態を相互変換しながら色調の変化する「エレクトロクロミズム系」に関する研究を続けています。反応の十分な可逆性を確保するためには、その有機化合物がイオン化された状態でも安定であることが必要であり、いかにしてそれを達成するかは研究者の分子設計力の見せ所でもあります。分子設計に際して、ジヒドロフェナントレン (DHP) やジエテニルビフェニル (DEB) 骨格を利用することの利点は、酸化還元反応の前後でC-C結合の形成/切断を併発させ (「動的酸化還元挙動」)、それにより、2つの状態の双安定性が向上することにあります。これは将来、エレクトロクロミズム系を「単一分子メモリ」に利用する際には不可欠な要件です。また、電場以外の複数の外部刺激でも応答が可能なもの (多重入力型)、色調変化以外の複数のスペクトル出力が可能なものは (多重出力型)、並列処理の行える「分子演算子」としての基本能力を持ちます。複数の酸化還元部位を組み込んだり、有機溶媒中ばかりでなく水中でもクロミズム応答が可能な分子を合成することで、より高機能な応答系の構築が可能になります。

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安定な開殻種を与える新規な窒素複素環化合物
Stable Open-shell Species Based on Novel Nitrogen-heterocycles

Stable Open-shell species
 不対電子を持つ化学種はラジカルと呼ばれ、 「radical (過激、急進的)」 の語が示すように一般に反応性の非常に高い短寿命活性種です。不対電子が、ある特定の原子の上に専ら留まっているような「局在化」したものは、発生させても直ちに二量化や水素引き抜き反応が起こり、不対電子を持たない閉殻種となってしまいます。一方で、不対電子がヘテロ原子やπ共役系に「非局在化」したものは、種々のスペクトル的手法で観測できるほど十分長い寿命を持ち、非局在化程度の更に高い安定なものは、目に見える固体として取り出すこともできます。安定な開殻種は、閉殻種 (通常の分子) とは異なる特異な物性を示すことから材料化学分野での注目を集めています。
 当研究室では、ベンズインドーロカルバゾール (BIC) やキノキサリノキノキサリン (QQ) など、これまで合成例のなかった新規な縮環型窒素複素環化合物を題材として、安定なイオンラジカルや中性ラジカルの研究を行っています。中性型電子供与体や四級化カチオン種などの前駆体をまず有機合成し、酸化還元反応を利用して開殻種に変換することで、望みのラジカルを安定な化学種として単離することに成功しています。これら新規開殻種の持つ近赤外光の吸収特性や電導性など、興味深い特性も明らかになりつつあります。有機化合物は置換基の導入の自由度が高いため、物性の fine-tuning が可能であるという特徴があります。そのため、一旦有用な基本骨格が構築できると、そこから研究が大きく展開することが可能になります。

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貝毒ペクテノトキシン2の全合成 
Total Synthesis of Pectenotoxin-2

Figure of Pectenotoxin-2
 ペクテノトキシン2は渦鞭毛藻 Dinophysis fortii が生産する下痢性貝毒です。これは細胞骨格のアクチンファイバーに作用して、がん細胞の増殖も強く抑制します。そのため、がんの化学療法の観点から、その作用メカニズムに興味が持たれています。しかし、生産量が少ないため、調査の進展は遅遅としています。化学合成による物質供給も検討されて来ましたが、これは図のような特異で複雑な構造を持つため、合成法の開拓は困難でした。
 しかし、つい最近、私達の研究グループはペクテノトキシン2の全合成に成功しました。合成したペクテノトキシン2も強力ながん細胞増殖抑制作用を示すことが確認されています。この研究で開拓した合成法を利用すれば、少しずつ構造を変えた人工類縁体を多種類合成できるので、それらの活性強度を比較して活性発現に必要な構造要因を解明できると期待されます。そして、新たな制癌剤の開発につながる可能性があります。(秋田大学に研究主体が移動して共同で継続中)

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殺がん細胞活性パラ-ターフェニル天然物の全合成
Synthesis of Cytotoxic p-Terphenyl Natural Products

Figure of p-terphenyl natural products
 テレファンチンOはバイアリニンA/テレストリンAと共に青森県産のキノコ・ボタンイボタケ (Thelephora aurantiotincta) から単離された殺がん細胞活性を持つ天然物です。3個のベンゼン環が直線的に連なるパラ-ターフェニル骨格と、その中央のベンゼン環の6個の炭素全てに置換基を持つこと、隣接する2つのフェノール性水酸基を持つことが構造上の珍しい特徴です。
 イボタケ類は中国の雲南省のある地域では食されています。また、これらパラ-ターフェニル天然物は通常の細胞には毒性を示しません。従って、これらは、がん発症リスクを低減する機能性食品成分として期待されます。そこで、単離者の青森県立保健大学の乗鞍敏夫先生と松江一先生と共同で、これらパラ-ターフェニル天然物の殺がん細胞活性発現の機序解明と機能性食品成分としての可能性を探るため、テレファンチンOとバイアリニンA/テレストリンAの全合成およびこれらの人工類縁体の合成を検討しました。
 その結果、これら天然物の簡便全合成に成功し、さらにフェノール部を改変した様々な類縁体の合成にも成功しました。青森県立保健大学におけるこの人工類縁体を用いた生物学的研究により、パラ-ターフェニル骨格上の隣接する2つのフェノール性水酸基と鉄イオンのキレーション(配位結合)が殺がん細胞活性発現に必須なことが明らかになりました。現在、活性発現機序の詳細を解明するため、さらなる検討が続けられています。(秋田大学に研究主体が移動して共同で継続中)

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シガトキシン3Cの全合成研究
Studies toward Total Synthesis of Ciguatoxin-3C

Scheme of Synthetic Plan for Ciguatoxin-3C
 シガトキシン3Cは、熱帯~亜熱帯のサンゴ礁海域にしばしば起こる、「シガテラ」という魚類の毒化現象の原因毒の1つとして、渦鞭毛藻 Gambierdiscus toxicus の培養株から単離されました。シガテラは食物連鎖 (藻~草食魚~肉食魚) を経て普段は食用とされる魚類にも起こり、それを摂食した人間が温度感覚障害などの重篤な神経障害を起こすため、該当地域ではシガテラが深刻な社会問題になっています。
 一方、これまでのシガテラ中毒の予防・治療のための研究では、必要な毒素の供給に難がありました。毒魚や渦鞭毛藻から毒素を純粋に取り出すことは可能ですが、シガテラ毒を多く含む毒ウツボを4トン用いても類縁体のシガトキシン1Bを 0.35 mg しか取り出せないほど、天然に存在する毒素がわずかなことが障害でした (他方、この量で大規模な中毒を起こせるほど、シガトキシン類の毒性は強力です)。
 現在は、長い苦労の末、シガトキシン類が化学合成可能になり (東北大・平間グループ、名古屋大・磯部グループ)、シガテラの研究に提供されるようになりました。しかし、シガトキシン類は複雑な構造を持つため、合成は容易ではありません。シガテラの予防と治療の研究の進展のため、より良い合成法に進化させる必要があります。
 当研究室では、シガトキシン3Cを対象に、全合成を検討しています。これまでに、13個の環状エーテル (AからMまで記号が付いています)のうち、AB、EF、I、L環のそれぞれの合成法を確立しました。これらの部品をつなぐ方法にも目処がついており、これから全体を組み立てる作業に入るところです。シガテラ研究の一助になるような全合成が完成するよう、努力を続けています。(秋田大学に研究主体が移動して共同で継続中)

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ニグリカノシドAジメチルエステルの全合成研究
Studies toward Total Synthesis of Nigricanoside-A Dimethyl Ester

Nigricanoside-A Dimethyl Ester
 ニグリカノシドAは、ドミニカ産の緑藻ハウチワ属 Avrainvillea nigricans からジメチルエステルとして単離された天然物です。細胞の有糸分裂を強く阻害することから、新たな抗がん剤のリード化合物として興味を集めています。その化学構造は、基本単位が葉緑体の膜成分のモノガラクトシルジアシルグリセロールと同じですが、脂肪酸鎖間および脂肪酸鎖とガラクトース間がエーテル結合で結ばれ、グリセロールと脂肪酸鎖間がエステル結合していないため、これまでに無い新しいものになっています。
 当研究室ではニグリカノシドAの特異な構造と強い生物活性に興味を持ち、この化合物のジメチルエステルの全合成研究を企画しました。当初、この化合物は絶対立体配置が解明されていなかったため、現在までに相対立体配置が既知のガラクトース部とその近隣の2個の不斉点を含む部分構造についてモデル合成し、その部分の相対配置を予測しました。同時に、下部脂肪酸鎖とガラクトース間のエーテル結合部の形成法の確立という、全合成上意義ある結果も得ています。
 最近、別の研究グループによりニグリカノシドAジメチルエステルが全合成され、絶対配置が決定されましたが、上記の部分立体構造は我々の予測と一致する結果でした。
 現在、独自の合成法を開拓中であり、より効率的な全合成を目指しています。(秋田大学に研究主体が移動して共同で継続中)

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テレフタルアミドを基盤とした動的らせん性分子
Dynamic Helical Molecules Based on Terephthalamides

terephthalamides
 画家とよばれる人が描きたい絵を描くように、分子の形を自由に思い描き、それをつくることができたら楽しい。中には、周囲の状態によって、あるいは外からの刺激によって自身の形を変化させる分子があります。形が変われば性質も変わるからおもしろい。
 様々な形の中には、ある形とそれを鏡に映した形を重ね合わせることができない場合があります。右手と左手の関係です。この右手と左手の関係は、われわれ生体を含む自然界に広く存在しますが、基本原理はたった三つの種類  (中心性・軸性・面性)ともう一つ(らせん性)に分類されます。らせん性は文字通りらせん構造に由来しますが、他にないでしょうか?当研究室では、これまでに知られていない、あるいは実現されていない右手と左手の関係にある分子を、テレフタルアミドとよばれる骨格を利用して、独自に設計し、実際につくっています  [プロペラ・8の字・他]。そこで起きる様々な現象を観測しています。

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一方のねじれを優先させた動的プロペラ型分子
Chiroptical Dynamic Molecular Propellers

Propellers
 プロペラの形は、らせん構造と同じように、右巻きと左巻きがあります。分子レベルで"プロペラ"の形を設計しようとする場合、ある原子や平面をなす原子団の周囲に羽根をつけ、「すべての羽根のねじれ方向が右巻きか左巻きのどちらか一方を優先させる」ようにつくる必要があります。
 プロペラ構造を与えうる足場として、六置換ベンゼンに着目しました。ヘキサフェニルベンゼンの六つの羽根のうち、二つをアミド基で置き換えた分子1を設計しました。syn-1は、潜在的にアミド基の同旋的なねじれを好み、結晶中だけでなく、溶液中でも一方のねじれ方向を優先したプロペラ構造をとることを見出しました。
 ヘキサキス(フェニルエチニル)ベンゼンの六つの羽根のうち、隣り合う二つの羽根を連結した分子2を設計しました。2は、単独ではプロペラでない構造をとっており、ある分子(右手の役割)と混合したときだけ、一方のねじれを優先したプロペラ構造に変換されます。別の分子(左手の役割)と混合しても、元のプロペラでない構造を維持します。この現象は立体特異的構造変化とよばれ、あたかも鍵を鍵穴にさし、回して開錠するときの様子に似ています:正しい鍵は鍵穴にささり、回して開錠することができる。正しくない鍵はたとえ鍵穴にささったとしても、回すことができない。3は、単独でもプロペラの構造をとっていると予想されますが、個々の羽根が高い自由度をもつため、羽根の先に導入してある局所的なキラリティがプロペラのねじれ方向に優先性を与えることはありません。ここで、隣り合う二つの羽根を対とするような分子と錯体を形成すると、二つの羽根は連動するようになります。このとき、分子全体として一方のねじれ方向を優先したプロペラ構造が誘起されたと考えられる現象を見出しました。
 この他に、層状化合物でもプロペラ構造を創り出せることを見出しました。二つの層を上下に重ね、これらを三か所で連結した分子4を設計しました。4は、二つの層のねじれ方向がある状態では時計回りを、別のある状態では反時計回りを優先してねじれます。定義上、いずれもヘリカルな構造(M or P)とみなすことができますが、一方のCD活性は小さく、もう一方は大きくなります。この二状態間をゲスト分子との錯形成によって変換できることを見出しました:CD活性の小さなヘリカル構造(ゲスト非存在時、非プロペラ型)からCD活性の大きなヘリカル構造(ゲスト存在時、プロペラ型)。この構造変化は、錯形成の前後でらせん性の反転を伴って起きたことになります。

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