研究内容
分子間相互作用を制御して新規機能性材料を創る
複数の化合物が混ざったものを混合物と呼びます。これまでの化学は基本的にいかにして純粋な化合物を合成し、単離し、分析するか、に焦点が当てられていたため、混合物はあまりいいイメージの言葉ではありません。しかし、混合物はそれぞれの成分単独では示すことのできない機能・構造・反応を創出することが期待できます。当研究室では、混合物における化合物間の会合・離散を巧みに制御することで異なる構造体を作り、物質やエネルギーをやりとりさせることで、新規機能性材料の開発を目指しています。このような目的を達成するために、我々は有機化学、高分子化学、物理化学、理論・情報化学などの知識を総動員することで、「複雑系」に関する新しい物質、現象を発見し、理解することを目指します。
親油性電解質を用いたソフトマテリアルの開発
これまでの高分子電解質の研究は、主に水を中心とする高極性溶媒中で行われており、非極性環境下(誘電率 ε<10)において高分子電解質として機能するものは存在しない。これは、誘電率の低い環境下ではイオンが高次会合体を形成し、高分子鎖の凝集が起こるためである。
そこで我々は、非極性環境下でも解離可能なイオン対を高分子鎖に導入することで、非極性環境下においても機能する高分子電解質として機能する新たな「親油性高分子電解質」が創製できると着想した。非極性環境下で機能する親油性高分子電解質の分子設計・合成を行い、高分子電解質としての機能を見出し、幅広い応用展開を目指し研究を行っている。
- ACS Macro Letters 2012, 1(11), 1270-1273. link
応用展開例として、親油性高分子電解質を架橋することで、自重の数百倍も有機溶媒を吸収する有機溶媒高吸収性樹脂の開発に世界で初めて成功した。この材料は、揮発性有機化合物(VOC)や排出油の回収、オイルフェンスなどの環境問題対策の有力な手段として期待できる。
我々が作製した親油性高分子電解質ゲルはわずかな溶媒組成の変化に応答して不連続体積変化を起こすことを明らかとした。
- Soft Matter 2008, 4, 748-750. (Hot Article) link
クリックケミストリーを利用したMetal-Organic Frameworks (MOFs)の事後修飾
Metal-Organic Frameworks (MOFs)は、多様な有機配位子と金属イオンから構成される有機多孔性物質である。MOFsは、配位子の構造や配位様式の違いにより空孔を自在に設計でき、骨格である有機多孔性物質自体の持つ機能を空孔に直接反映させることができる。そこで我々は、官能基や構造をMOFsに修飾する手法として、有機配位子にアジド基を有するMOFsを形成後、クリックケミストリーにより目的の官能基や構造を導入する事後修飾反応を提案し研究を行っている。
- J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14354-14355. link
有機結晶の異方的表面を利用した複合材料の開発
結晶構造をデザインして固体の構造、物性、反応、機能を設計する結晶工学(Crystal Engineering)の概念が提唱されて以来、様々な有機分子の単結晶が報告されている。有機分子の単結晶は、異方性や面特異的なモルフォロジーなどの無機材料にはない特徴を有していることから、機能性材料としての利用が期待されている。我々は超分子化学の概念を取り入れて、有機結晶の持つ特異的性質と分子間相互作用を積極的に利用した新しい分子集合体の構築と固体材料への応用を目指して、研究を行っている。
- Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 4764-4767. (Inner Cover) link
- Chem. Commun. 2006, 34, 3617-3618. link
Metal-Organic Frameworksを鋳型にした高分子ゲルの合成と機能
MOFのナノ空孔を利用して、有機配位子同士を外部からの架橋剤で架橋することで、結晶1個を丸ごと高分子ゲルへと変換できることがわかりました。MOFも高分子ゲルも共に3次元的な網目構造をもつ構造体ですが、両者をシームレスに融合した材料はこれまでのありません。またMOF結晶の形・大きさを制御することで、高分子ゲルのそれらを制御することにも成功しています。ナノからミクロサイズの多面体構造を有する高分子ゲルが設計・合成できることになり、新しい材料への展開が期待できます。
- Angew. Chem. Int. Ed. 2012, 51, 10566-10569. link
高分子溶液でのLCST型相転移の分子デザイン
感温性高分子は刺激応答性材料として、注目を集めています。中でも温度を上げることによって高分子のコンフォーメーションが変化して、溶解性が急激に悪くなるLCST型の相転移はその分子設計の難しさから、これまで両親媒性高分子(たとえばNIPAM)-水系以外についてはほとんど研究されてきていない。我々は比較的やわらかい高分子鎖の官能基間の相互作用を部分的に切断するようなeffectorを導入し、溶媒-高分子-effectorの三成分系とすることでLCST型の相分離を起す高分子の分子デザインを明らかにすることができました。様々な媒質、温度で、巧みに分子間相互作用を利用して、LCSTで発現することのできる新しい材料の構築が可能になると期待しています。