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沿革

1. 理学部化学第二学科生物有機化学講座の誕生:最初の10年間(1966 - 1975)

教授 八木康一 (1966 - 1989)
助教授 内田倖喜 (1966 - 1973)
助手 盛田フミ (1966 - 1973)
助手 矢澤洋一 (1967 - 1975)

骨格筋収縮の分子機構を解明することをめざして、生化学的手法や物理化学的手法を用いてウサギの筋肉タンパク質ミオシンの研究を始めた。当時は、酵素反応速度論的な研究が主流の時代であったが、これに分光学的な測定を組み合わせて、筋肉のエネルギー変換過程にミオシン分子の高次構造変化がカップルしていることを発見した。さらに、ミオシンを物理化学的に研究しようとするときの難点である低イオン強度下での不溶性を克服する努力がなされ、キモトリプシンによる限定加水分解法を用いて、モータータンパク質としての機能を維持した可溶性ミオシン断片の調製法を確立した。筋収縮のエネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)の代わりに使える蛍光性の誘導体を合成し、エネルギー変換過程を分光学的に高感度で追跡する試みにも成功した。

2. 次の10年間(1976 - 1985)

教授 八木康一 (1966 - 1989)
助教授 盛田フミ(1973 - 1989)
助手 矢澤道生 (1975 - 1985)
助手 吉田幹晴 (1976 - 1985)

筋肉の収縮、エネルギー変換の研究は、ミオシンとアクチンのタンパク質間相互作用と、 ミオシンATPase反応の共役の分子機構の研究という方向で発展した。ウサギは引き続き研究室に貢献し続けた。一方、北海道でホタテガイの養殖が盛んになり、貝柱筋収縮の分子機構の研究に進んだ。石油ショックの時期を経験して、貝柱にこびりついた真っ白い平滑筋がつかさどる省エネ筋収縮、いわゆるキャッチ収縮の研究につながる。筋肉は、必要なときに収縮する。当たり前のことだけれど、化学の世界では、反応物質と触媒があれば平衡になるまで一方的に反応が進む。細胞の中には触媒も反応物質もあるのに、反応は必要なときだけ起こる。この機構を明らかにしようという収縮調節機構の研究が始まったのもこの時期である。ミオシンキナーゼとミオシンのリン酸化の意義を研究する過程で、カルモジュリンを見つけ、カルシウムイオン(Ca2+)による収縮調節の新しい側面を開くと同時に、細胞内シグナル伝達系のセカンドメッセンジャーとしてのカルモジュリンの生理機能を確立した。カルモジュリンを使ったタンパク化学的研究・物理化学的研究が始まり、 学内外、国内外での協同研究が芽生えたのもこの時期である。

3. 昭和から平成へ(1986 - 1995)

教授 盛田フミ (1989 -1996)
助教授 矢澤道生 (1989 - 1994)
助手 加藤剛志 (1990 - 2000)
助手 江藤真澄 (1991 - 1999)

八木教授の停年退官後、盛田フミ教授のもとでの研究が始まった。骨格筋の研究は、ミオシンとアクチンの相互作用部位の同定という方向へと発展した。また、ブタ大動脈を使った血管平滑筋の収縮機構の研究が始まった。一方で、パン酵母を使ったカルモジュリンの研究、大腸菌を使ってタンパクをつくらせる研究が軌道に乗り、研究は、ウサギ、ホタテガイ、ブタ、パン酵母、大腸菌といった沢山の生物のお世話になるようになった。平滑筋の収縮制御機構を解明するために、ミオシンのリン酸化に加えて、脱リン酸化過程の研究を始め、大動脈平滑筋に内在するミオシンホスファターゼ活性阻害タンパク(CPI17)を発見した。化学架橋法と電子顕微鏡によるミオシン分子の観察を組み合わせ、ミオシン分子のリン酸化から収縮調節につながる過程の分子機構を解明する研究を始めた。

4. 大学院重点化による改組と化学専攻生命分子化学講座(1995 - 2006)

教授 矢澤道生 (1995 - 2009)
助教授 高橋正行 (2001 - )
助手 湯浅 創 (2000 - 2002)
助手 中冨晶子 (2003 - 2014)

平成7年4月より、大学院理学研究科化学専攻生命分子化学講座の 1グループとして生物有機化学研究室という名称を受け継ぎ研究を行ってきた。 平成8年3月に、盛田教授が停年退官し、3人構成で研究が継続された。

パン酵母とホタテガイ精巣を使ったカルモジュリンの生理的機能の研究に加えて、 カルシニューリンと当研究室で発見した新規カルシニューリン結合タンパク質CaNBP75の機能解明を進めてきた。また、平滑筋の収縮調節機構の研究は、ミオシン分子からと、そのリン酸化制御システムを構成するミオシンキナーゼ、 ミオシンホスファターゼおよびその内因性の阻害タンパク(CPI17)の研究の両面から進めてきた。さらに、細胞の運動・形態変化に関わる分子機構の解明のため非筋細胞ミオシンを中心とした研究を多角的に展開してきた。

5. 学院、研究院体制化に伴う改組(2006 - 2009)

教授 矢澤道生 (1995 - 2009)
准教授 高橋正行 (2001 - )
助教 中冨晶子 (2003 - 2014)

平成18年4月より、大学院理学院化学専攻の1グループとして研究を続けてきた。

これまでの流れを受け継ぎ、精巣でのカルシニューリンとCaNBP75の機能解明にむけた研究と、細胞の運動・形態変化に関わる分子機構の解明のため非筋細胞ミオシンを中心とした研究の二本柱で、研究を展開してきた。

6. 村上教授就任(2009 - )

教授 村上洋太(2009 - )
准教授 高橋正行 (2001 - )
助教 中冨晶子 (2003 - 2014)
助教 高畑信也 (2009 - )

矢澤教授の定年退任に伴い、京都大学ウイルス研究所より村上洋太教授が着任した。高橋准教授、中冨助教に加え、新たに高畑助教が加わり、4人体制で新たなスタートを切った。

村上教授がこれまで取り組んできた、ヘテロクロマチンの形成、制御機構の研究が新たに加わった。遺伝子発現制御や染色体機能・維持に重要なクロマチン高次構造であるヘテロクロマチンについて、その構造がどのようにして形成され維持されるのか、あるいはヘテロクロマチンの多様な機能がどうのように制御されているかを、分裂酵母をモデル生物として、分子生物学、生化学的手法を用いて研究を行っている。
また、これまで行ってきた細胞の運動・形態変化に関わる分子機構の解明にむけた非筋細胞ミオシンを中心とした研究と、精巣でのカルシニューリンとCaNBP75の機能解明にむけた研究も継続して行われており、それぞれの研究テーマ間でも互いに刺激を与えながら、日々研究が進められている。