錯体化学研究室 > 2015
最近の研究結果:2015年
発光波長とイオン伝導度が連動する多孔性配位高分子
発光性ルテニウム(II)錯体配位子とランタン(III)イオンからなる多孔性配位高分子(PCP)を合成しました。このPCPは細孔内に多量の水分子と水酸化物イオンを有し、高湿度条件下においてイオン伝導性を示します。また、相対湿度に依存して錯体配位子由来の3MLCT発光エネルギーが変化することが見出され、イオン伝導と発光挙動が同時に変化する珍しい系であることが分かりました。
銅(I)クラスターを用いたベイポクロミック発光性配位高分子
強発光性錯体として知られている銅(I)クラスター錯体を構築素子として用いて、蒸気に応答して発光色を切替える「ベイポクロミック発光性配位高分子」の合成に成功しました。2核クラスターを用いた場合では、非常に強固なフレームワークが構築され発光色が変化しない一方で、4核クラスターを用いた場合では、蒸気の吸脱着に応じて発光色が変化する「ベイポクロミック発光」を示すことがわかりました。本成果は、安価な銅を利用した新しい化学センサーのための基盤材料になると期待されます。
カルボキシル基による発光性白金(II)錯体の集積制御
集積状態の制御を目的に、水素結合能・配位結合能を有するカルボキシル基を導入した強発光性の白金(II)錯体の合成を行いました。無置換体では単核由来の発光を示すのに対し、カルボン酸体では固体・溶液状態でも集積由来の発光を示すことを見出しました。このような単純な錯体分子による溶液中での集積状態の制御は珍しく、新たな集積法として期待できます。
二成分発光を示す白金(II)錯体イオン液体の合成
単核及び集積状態によって発光色変化を示すアニオン性の白金錯体において、イミダゾリウムを対イオンとするイオン液体を合成しました。得られたイオン液体は単核及び積層状態由来の発光が観測される二成分発光特性を有し、その発光強度比は温度により変化します。これらの発光挙動にはイオン液体中で単核及び集積状態の共存とエネルギー移動が関与しているという、興味深い性質を持つ液体状化合物であることを見出しました。
レドックス活性なクロム(III)錯体配位子と種々の金属イオンとの相互作用
Cr(III)とパープルオロカテコラトから成る配位子中心のレドックス能を有する錯体配位子と、種々のゲスト金属イオンとの相互作用及びレドックス反応について明らかにしました。また、この錯体配位子が相互作用するゲスト金属種に依存してレドックス特性を変化させることを見出しました。
配位子から光水素発生する3d金属錯体の系統的合成
光照射によって配位子から水素を発生させるトリス(o-フェニレンジアミン)鉄(II)錯体について、中心金属イオンをさまざまな3d金属イオンに置換させた各種錯体を系統的に合成しました。また、中心金属イオンの種類より配位子の電子構造が水素発生能に大きな影響を与えることも見出しました。
系統的な配位子置換による強発光性銅(I)単核錯体の発光色制御
非常に強い発光性と簡便な合成法を両立させた銅(I)単核錯体について、用いるN-ヘテロ芳香族配位子を系統的に変化させることで発光色を青色から赤色まで色とりどりに変化させることに成功しました。また、用いる配位子によって発光由来が変化することも見出しました。
錯体配位子ドーピングによる多孔性配位高分子の高機能化
Co(III)錯体配位子からなる多孔性配位高分子に対して、同形のRu(II)錯体配位子を不純物的にドーピングすることに成功しました。異なる電荷を有する錯体配位子を混合できたことで、多孔性配位高分子のガス吸蔵特性や構造柔軟性などを大幅に制御できる新しい手法として期待されます。
モリブデンカテコラト錯体の置換基に依存した構造・反応性の変化
[MoII2(OAc)4]とカテコール誘導体との反応により、2種のモリブデンカテコラト錯体の合成を行いました。電子供与性のt-Bu基を有する配位子では単核のトリス(カテコラト)錯体が得られたのに対し、電子求引性のBr基を有する配位子では[Mo(μ-O)2Mo]コアを有する二核錯体が得られました。これらは置換基に依存して異なる反応性を示し、特にBr基を導入した後者の錯体はDMSO還元能を示すことが見出されました。