最近の研究結果:2020年

スピンコート法によるベイポクロミック銅(I)薄膜の作成

 

 

蒸気センサー材料へのさらなる応用を目的として、蒸気曝露によって発光色の変化を示す銅(I)錯体の薄膜化に成功しました。銅(I)は置換活性であるため、これまで溶液状態で構造を保つことが困難でした。しかし、配位子自身を溶媒としたスピンコート法を利用することでこの課題を克服しました。また、薄膜状態では結晶状態と比べて迅速かつ鮮明に発光色が変化し、薄膜化の重要性が確認出来ました。

Ru(II)錯体多層化TiO2ナノ粒子光触媒のZr(IV)イオン修飾による活性向上

 

 

高効率なZスキーム型光触媒を実現するためには電子伝達剤との反応性を向上させることが重要です。今回Ru(II)色素を多層固定化したPt-TiO2ナノ粒子において、その表面構造を電子伝達剤であるヨウ化物アニオンとの反応性が向上するように制御しました。その結果、Zr(IV)カチオンをナノ粒子表面に露出させた系が反応初期の外部反応量子収率1%に到達し、静電相互作用によって電子伝達剤との反応性を大幅に向上できることが分かりました。

液液界面上における多孔性白金(II)錯体結晶の選択的形成

 

 

多孔性分子結晶(PMC)は機能性の細孔や柔軟な構造から多機能性材料として注目されていますが、熱力学的に不安定であり、その選択的結晶化は時に困難を伴います。今回、水素結合性の新規白金(II)錯体を結晶化させる際に、従来法では選択的に得ることが難しかった多孔性結晶がMeOH/H2O混合溶媒とアルカンとの液液界面で選択的に結晶化できることが分かりました。これにより、光機能性の新規PMCの開発に成功しました。

白金間距離の精密制御による幅広い3MMLCT発光色制御

 

 

N-ヘテロ環状カルベン(NHC)を有する中性白金(II)錯体に対し、置換基の嵩高さを系統的に変化させることで結晶中での白金間距離の精密制御に成功しました。この精密制御と適切なπ系を持つ配位子の選択により3MMLCT発光としては珍しい黄緑色発光に加え青色の3MMLCT発光を初めて実現し、その結晶構造と発光特性の温度依存性から発光特性を詳細に検討しました。同一の分子骨格を維持したまま強発光性と幅広い発光色制御が可能であることを示した今回の結果は、3MMLCT発光の優位性を再認識させる結果です。

遅延蛍光性銅(I)配位高分子の完全無溶媒加熱合成

 

 

我々は先に、簡便で環境負荷の少ない発光性銅(I)錯体の合成法として、合成溶媒や洗浄溶媒を一切用いない完全無溶媒加熱合成法を報告しました。今回、この無溶媒加熱合成法を適用することで種々の遅延蛍光性銅(I)配位高分子を系統的に合成することに成功しました。興味深いことに、加熱合成法で得られた配位高分子はいずれも溶液法で合成した試料と比べても遜色のない高い発光量子収率や発光特性を示しました。

ヨウ化物イオンを電子源としたRu(II)錯体多層化TiO2ナノ粒子触媒の光水素発生反応

 

 

Zスキーム型光水完全分解系の創成を目指し、白金コロイド担持酸化チタンナノ粒子表面にポリピリジル型Ru(II)光増感剤を多層化させ、レドックスメディエーターとして広く用いられているヨウ化物イオンを電子源に用いた光水素発生反応の活性を検討しました。その結果、光増感剤を多層化することによって活性が飛躍的に向上しました。これにより酸素発生系との連結の実現へ向けた可能性を開拓しました。

空気下でも簡便に合成できる強発光性白金(II)ビフェニル錯体

 

 

2つのカルボアニオンでキレートされたビフェニル錯体は高い発光性が期待されますが、合成に禁水試薬が必須であり、発光材料としての展開は非常に限定的です。今回、ボロン酸のトランスメタル化反応を経由することで、従来は合成に煩雑な嫌気操作が必要だった白金(II)ビフェニル錯体を空気下ですら簡便に合成することに成功しました。また、これらの錯体は最大で量子収率80%という優れた発光性を示しました。

フッ素を導入したC^N^Cシクロメタレート型白金(II)錯体の発光挙動

 

 

シクロメタレート型Pt(II)錯体は通常強い発光性を示しますが、C^N^Cの三座配位子ではその予想に反して弱い発光しか見られないことが知られています。その理由に関して配位子にフッ素を導入したPt(II)錯体に対し分光及び計算化学を用いて調べた結果、MLCT性発光を有する平面構造から非常に小さいエネルギー障壁でゆがんだ非発光性構造へと変化することが示唆されました。これらの結果は、Pt(II)錯体の設計性と弱い発光性の理由に関しての知見を与える結果です。

ヘテロレプティック銅(I)錯体の発光性に対するジイミン配位子の影響

 

 

溶液内の安定性と高い発光性を両立する銅(I)ジイミン・ジホスフィン錯体について、種々のジイミン配位子が発光性に与える影響を検討しました。その結果、芳香族ジイミン配位子を導入した場合はいずれも良好な遅延蛍光性を示したのに対し、脂肪族ジイミン配位子では励起状態で大きな構造ひずみに起因して失活することが分かり、ジイミン配位子が励起状態のダイナミクスに大きな違いを及ぼすことを見出しました。

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