無機固体化学の分野では、主として、3d軌道に不対電子を持つ遷移金属を含む化合物について、古くから研究がなされており、最近では、高温超伝導、巨大磁気抵抗といったよりエキゾチックな物性を示すものに主眼がおかれ、精力的な研究がなされているが、4dあるいは5d遷移金属を含む化合物の物性については、まだ、未解明な部分が多い。
そこで、我々の研究グループでは、4d(5d)遷移金属と、希土類元素(4f電子系)を共に含む化合物に注目し、これらの物質群が織り成す多種多様な物性について解明し、さらに、新たなそして興味深い物性を示す物質群の探索および開発することを目的としている。これまで、このような視点から新規複合酸化物、カルコゲナイドの探索、合成、物性評価を行い、白金族元素を含む酸化物中において、白金族元素のd電子と希土類元素のf電子との間に協同的な磁気的相互作用が生じ、その結果、興味ある様々な磁気的挙動を示すことを見い出してきた。
これらの化合物については、日本原子力研究所の原子炉JRR-3を用いて中性子回折実験を行い、磁気構造の解析も行っている。また、これらの研究は日本原子力研究所東海研究所や東北大学金属材料研究所など外部研究機関との共同研究という形でも展開している。
研究テーマ
- 遷移金属および希土類元素を含むペロブスカイト型酸化物の電気伝導性および磁性
- 遷移金属および希土類元素を含む硫化物の電気伝導性および磁性
- 希土類元素を含む複合酸化物中における電子状態(EPR的研究)、etc.
最近の研究より
メリライト型酸化物の磁気的性質
メリライト構造を持つ酸化物A
2MM’
2O
7(A = Sr, Eu; M = 遷移金属; M’ = Si, Ge)は、遷移金属の二次元配列とそれに起因する低次元磁性を持つ。それに加えてAサイトに4f電子を持つ2価のユーロピウムを導入することで、この系で初めてフェリ磁性を示す化合物Eu
2MnSi
2O
7を発見した。さらに、遷移金属サイト間の磁気的相互作用に関する知見を得るために、Sr
2MSi
2O
7(M = Mn, Co)の様々な物性測定や中性子回折実験を行い、遷移金属イオンの磁気異方性を反映した特徴的な磁気構造を持つことを明らかにした。
新規層状オキシセレナイドの磁気的性質
遷移金属を含んだ新規層状オキシセレナイドLn
2M
2O
3Se
2(Ln = ランタノイド; M = Fe, Co)を合成し、その結晶構造を決定するとともに、磁気、比熱、中性子回折測定等を行った。これらの化合物群では、遷移金属の磁気モーメントはいずれも2次元的な反強磁性挙動を示した。また、低温では、長距離磁気秩序を示すことを見出し、その磁気構造を決定した。特に、Coイオンの場合には、最近接イオン間の磁気モーメントが直交した特異な構造をとることを明らかにした。
希土類元素を含む6H-ペロブスカイト型酸化物の磁性
6H-ペロブスカイト型ルテニウム酸化物Ba
3LnRu
2O
9 (Ln = lanthanides)の結晶構造は、Ruイオンがつくる八面体が面共有してRu
2O
9ダイマーを形成している。これらの化合物は希土類元素によって低温で様々な磁気秩序を示すことを見出した。
遷移金属酸化物におけるクラスター磁性
希土類元素を含む遷移金属酸化物を合成し、磁気、比熱、メスバウア分光、中性子回折測定等を行い、磁気的性質について調べた。これらの化合物群では、遷移金属が四面体クラスターを形成しており、四面体クラスター内ではフェリ磁性を示し、クラスター間にも磁気的相互作用が働いていることを明らかにした。
2次元構造をもつ遷移金属カルコゲナイドにおける電荷密度波超伝導
遷移金属が2次元シート状に配列した3元系金属リッチカルコゲナイドの合成に成功し、低温で超伝導転移を示すことを見出した。特に、遷移金属としてロジウムを含む化合物は、1Kで超伝導転移を示すだけでなく、室温付近でも異常を示し、この異常が電荷密度波(CDW)の形成によることを明らかにした。