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"ISNA-18"
(Jul 21-26, 2019)
研究概要 Research Themes
Contents
世界一長い炭素-炭素単結合
Ultralong C-C Bonds in Hexaphenylethane Derivatives

Figure of Hexaphenylethane Derivatives
 炭素-炭素単結合は1.54 Å(オングストローム)という標準的な結合長を持ちます。しかし,結合を作っている二つの炭素それぞれに,嵩高い原子団(置換基)を持つ場合には,置換基同士の反発を軽減させるため,結合長が1.6 Åほどまで伸長することが知られています。それぞれの炭素にベンゼン環が三つずつ置換したヘキサフェニルエタンは,長い結合を持つ代表的な分子ですが,伸びた結合は結合力が小さく容易に切断されるため不安定で,すぐに別の物質へと変化してしまいます。もしも,結合が切れそうになっても別の物質にならなかったら,もしも,置換基同士の反発をもっと大きくしたら,炭素-炭素単結合は更に伸びるのでしょうか?これについて米国の研究者は,結合長と結合エネルギーの間に直線的な負の相関があると仮定し,『1.75 Åを超える炭素-炭素単結合は存在し得ない』と予測しました。
 しかし当研究室では,ヘキサフェニルエタン型分子に関する長年の研究成果をもとに精密な分子設計を行い,ピラセン型化合物 DSAP について-180 ℃でのX線構造解析を行うことで,この物質が1.77 Åを超える究極までに伸びた結合を持つことを2008年に見出しました。ここで,非結合性の炭素…炭素原子間接触は1.80 Åと報告されており,その値を超える結合は存在し得るのか,興味が持たれます。そのような背景のもと,10年の時を経て新たな記録を樹立しました。すなわち,二つのジベンゾシクロヘプタトリエンがスピロ縮環したジヒドロピラシレン誘導体において,127 ℃でのX線構造解析を行うことで,1.806(2) Åという結合長を明らかにしました。これは電荷の影響を受けない中性の化合物中で見出された,世界で一番長い炭素-炭素単結合であり,1.8 Åを超える結合の存在を実験的に証明した初めての例です。私たちは,この1.8 Åを超える領域を『超結合』と称し,更に長い結合を持つ物質の探索を行っています。
 そんなオリンピックのような研究は,単に記録を更新することが目的ではなく,究極の状態を調べることによって共有結合性の本質を解明したり,高度に歪んだ物質の合成過程で構造有機化学的な知見を拡張したりできる点に大きな意味があります。また DSAP を含め関連の物質は,伸びた結合の可逆な切断にともなう色調変化(クロミズム応答)を利用することで,表示機能などへの応用も期待されている分子群です。

[DSAP]: H. Kawai, T. Takeda, K. Fujiwara, M. Wakeshima, Y. Hinatsu, T. Suzuki, Chem. Eur. J. 2008, 14, 5780-5793.; T. Takeda, H. Kawai, R. Herges, E. Mucke, Y. Sawai, K. Murakoshi, K. Fujiwara, T. Suzuki, Tetrahedron Lett. 2009, 50, 3693-3697.
[超結合]: Y. Ishigaki, T. Shimajiri, T. Takeda, R. Katoono, T. Suzuki, Chem 2018, 4, 795-806. (free access); 和文プレスリリース; 英文プレスリリース
T. Shimajiri, T. Suzuki, Y. Ishigaki, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 22252-22257.; 和文プレスリリース; 英文プレスリリース


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呼べば答える応答性分子:多重出入力による高機能化
Advanced Molecular Response Systems Endowed with Multi-input and Multi-output Functions

Molecular Responce Systems
 ある種の有機化合物では,試薬と混合せずとも光照射や加熱のみで化学反応が進行します。そうして生じた生成物が,もし仮に,別の照射/温度条件下で元の物質を100%再生すれば,光や熱などの外部刺激は,物質がとりうる二つの状態(原料と生成物)を可逆に行き来させるトリガーとなります。外部刺激でスイッチされる二つの状態の物性(色調,蛍光性など)が大きく異なる化合物は,実験者が光照射や加熱といった行為を行うことによって,目に見える形で相互変換の様子を観測できることから,「応答性分子」と呼ばれています。光や熱以外にも,pHや電場など様々な外部刺激を入力として反応する応答性分子が知られています。pHの違いで色の変化するものは,ペーハー指示薬としておなじみのものであり,外部刺激によって色の変化するものは,まとめて「クロミズム系」と分類されます。
 当研究室では電位の変化を刺激とし,酸化還元反応で二つの状態を相互変換しながら色調の変化する「エレクトロクロミズム系」に関する研究を続けています。反応の十分な可逆性を確保するためには,その有機化合物がイオン化された状態でも安定であることが必要であり,いかにしてそれを達成するかは研究者の分子設計力の見せ所でもあります。分子設計に際して,ジヒドロフェナントレン(DHP)やジエテニルビフェニル(DEB)骨格を利用することの利点は,酸化還元反応の前後でC-C結合の形成/切断を併発させ(「動的酸化還元挙動」),それにより,二つの状態の双安定性が向上することにあります。これは将来,エレクトロクロミズム系を「単一分子メモリ」に利用する際には不可欠な要件です。また,電場以外の複数の外部刺激でも応答が可能なもの(多重入力型),色調変化以外の複数のスペクトル出力が可能なもの(多重出力型)は,並列処理の行える「分子演算子」としての基本能力を持ちます。複数の酸化還元部位を組み込んだり,有機溶媒中ばかりでなく水中でもクロミズム応答が可能な分子を合成することで,より高機能な応答系の構築が可能になります。

[DHP-type]: T. Suzuki, T. Takeda, E. Ohta, K. Wada, R. Katoono, H. Kawai, K. Fujiwara, Chem. Rec. 2015, 15, 280-294.; W. Nojo, H. Tamaoki, Y. Ishigaki, R. Katoono, K. Fujiwara, T. Fukushima, T. Suzuki, ChemPlusChem 2019, 84, 634-642.
[DEB-type]: H. Tamaoki, R. Katoono, K. Fujiwara, T. Suzuki, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 2582-2586.; E. Ohta, H. Uehara, Y. Han, K. Wada, H. Noguchi, R. Katoono, Y. Ishigaki, H. Ikeda, K. Uosaki, T. Suzuki, ChemPlusChem 2017, 82, 1043-1047.


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安定な開殻種を与える新規な窒素複素環化合物
Stable Open-shell Species Based on Novel Nitrogen-heterocycles

Stable Open-shell species
 不対電子を持つ化学種はラジカルと呼ばれ,「radical(過激,急進的)」の語が示すように一般に反応性の非常に高い短寿命活性種です。不対電子が,ある特定の原子の上に専ら留まっているような「局在化」したものは,発生させても直ちに二量化や水素引き抜き反応が起こり,不対電子を持たない閉殻種となってしまいます。一方で,不対電子がヘテロ原子やπ共役系に「非局在化」したものは,種々のスペクトル的手法で観測できるほど十分長い寿命を持ち,非局在化程度の更に高い安定なものは,目に見える固体として取り出すこともできます。安定な開殻種は,閉殻種(通常の分子)とは異なる特異な物性を示すことから材料化学分野での注目を集めています。
 当研究室では,ベンズインドーロカルバゾール(BIC)やキノキサリノキノキサリン(QQ)など,これまで合成例のなかった新規な縮環型窒素複素環化合物を題材として,安定なイオンラジカルや中性ラジカルの研究を行っています。中性型電子供与体や四級化カチオン種などの前駆体をまず有機合成し,酸化還元反応を利用して開殻種に変換することで,望みのラジカルを安定な化学種として単離することに成功しています。これら新規開殻種の持つ近赤外光の吸収特性や電導性など,興味深い特性も明らかになりつつあります。有機化合物は置換基の導入の自由度が高いため,物性のfine-tuningが可能であるという特徴があります。そのため,一旦有用な基本骨格が構築できると,そこから研究を大きく展開することが可能になります。

T. Suzuki, Y. Sakano, Y. Tokimizu, Y. Miura, R. Katoono, K. Fujiwara, N. Yoshioka, N. Fujii, H. Ohno, Chem. Asian J. 2014, 9, 1841-1846.; T. Suzuki, W. Nojo, Y. Sakano, R. Katoono, Y. Ishigaki, H. Ohno, K. Fujiwara, Chem. Lett. 2016, 45, 720-722.; W. Nojo, Y. Ishigaki, T. Takeda, T. Akutagawa, T. Suzuki, Chem. Eur. J. 2019, 25, 7759-7765.

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液相/固相で異なる刺激に応答する多重クロミック分子
Multi-chromism: Electrochromism in Solution and Mechanofluorochromism in a Solid State

Multichromism
 上述の「エレクトロクロミズム」は溶液中で観測される場合がほとんどです。一方,固体状態で観測可能な「メカノクロミズム」が近年注目を集めています。このメカノクロミック特性をもつ分子では,磨り潰しといった機械的刺激によって色調,あるいは発光色が変化します。このようなクロミック特性が発現する要因として,結晶中での分子構造自体が大きく変化する場合や,分子間の相互作用に変化が生じる場合が挙げられ,分子設計指針やメカニズムの解明に向けた系統的な研究が求められています。
 そこで私たちは,テトラアリールアントラキノジメタン(Ar4AQD)に着目しました。このものは,酸化還元に際して,折れ曲がり型の中性体(無色)とねじれ型のジカチオン型色素との間で相互変換を示し,溶液中で可逆なエレクトロクロミズムが観測されます。一方,固体状態においてAr4AQD誘導体が発光することを見出したことから,その機械刺激応答を調査しました。その結果,溶液中のエレクトロクロミズムに加えて,固体状態で結晶-アモルファス転移に基づくメカノフルオロクロミズムを示すことが明らかとなり,異なる相で異なるクロミズムを示す応答性分子の構築を実現しました。興味深いことに,メトキシフェニル基を有する誘導体を磨り潰すと,白色発光(可視領域のほぼ全域で発光)が観測されます。現在,さらなる検討を進めているところです。

Y. Ishigaki, K. Sugawara, M. Yoshida, M. Kato, T. Suzuki, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2019, 92, 1211-1217. [Selected Paper]; Y. Sakano, R. Katoono, K. Fujiwara, T. Suzuki, Chem. Lett. 2014, 43, 1143-1145.

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光/熱で酸化特性の完全制御が可能な分子スイッチ
Completely Switchable Oxidation Based on Photo- and Thermal Isomerization

Switchable Redox Properties
 共有結合は,有機化合物を構成する最も基本的な要素であり,その長さや二つの結合がなす角度は基本的に決まった値を示します。例えば,炭素=炭素二重結合は平面構造をとることが知られている一方,大きな置換基が複数置換した『超混雑エチレン類』では,折れ曲がり構造やねじれ構造といった,通常とは異なる構造をとることが報告されています。折れ曲がり構造にはsyn型とanti型が存在し,これらの構造間で相互変換を示すような分子も研究対象とされてきました。実際に,2016年に「分子機械の設計と合成」に関して欧米の研究者3名がノーベル化学賞を授与されたように,光や熱,あるいは別の刺激によって構造や機能が変化する応答性分子は,長年にわたって研究者の注目を集めてきました。
 そのような光や熱による構造スイッチングに対して,私たちの研究室で培ってきた酸化還元応答性分子に関する知見を組み合わせることで,より高度な応答系を構築できると考えました。すなわち,syn型とanti型といった異なる構造において,どちらか一方が酸化されやすくなるような分子設計を行えば,光や熱によって構造が変化した分子のみを選択的に酸化することができるはずです。そこで,二つのジベンゾシクロヘプタトリエン骨格を有するアントラキノジメタン誘導体を設計しました。検討の結果,anti,antiAA)型とsyn,antiSA)型異性体が安定に存在することを見出し,SA体からAA体への熱異性化とAA体からSA体への光異性化がどちらも100%進行することを明らかにしました。また,SA体が酸化されやすいことを利用して,一方の異性体の選択的酸化を実現しました。これまでに光/熱による完全な選択的酸化を実現した例はなく,本研究により世界で初めて実現しました。

Y. Ishigaki, Y. Hayashi, T. Suzuki, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 18293-18300.; 和文プレスリリース; Chem-Station 第244回スポットライトリサーチ

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加熱/冷却で酸化特性スイッチングが可能な分子
Switching of Redox Properties Triggered by a Thermal Equilibrium

Easy oxidation of twisted species
 前述のように,『超混雑エチレン類』では,折れ曲がり構造やねじれ構造をとることが知られています。これまでの報告例では,折れ曲がり構造が安定形であることが多く,ねじれ構造を発現させるには,三環性の置換基を複数連結するといった分子設計が必要でした。本研究では,従来とは異なるアプローチでねじれ構造を発現させ,構造変化を利用した新規応答性分子の構築を目指しました。
 そこで,多重クロミック分子として報告したテトラアリールアントラキノジメタン(Ar4AQD)に着目し,六員環のアリール基を五員環のチエニル基に置き換えることとしました。これにより,中央のアントラキノジメタンユニットとの立体障害が減少し,ねじれ構造が存在すると考えたためです。また,酸化状態での安定性を考慮して,チエニル基上にはメトキシフェニル基を導入することとしました。合成した化合物の構造をX線結晶構造解析により確認したところ,折れ曲がり構造であることが明らかとなりました。一方,溶液中における温度可変測定の結果,低温では同様に折れ曲がり構造として存在していることがわかりましたが,室温では一部がねじれ構造として存在していることを見出しました。それによって,加熱/冷却による酸化特性スイッチングを実現しました。このような熱平衡による酸化特性制御は前例がなく,本成果により初めて実現しました。さらに興味深いことに,このねじれ構造は開殻のジラジカルであることが判明し,磁性応答材料の開発にもつながると期待されます。

Y. Ishigaki, T. Hashimoto, K. Sugawara, S. Suzuki, T. Suzuki, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 6581-6584.; 和文プレスリリース

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