ナノ空間触媒の分子デザイン

有機化学の醍醐味は炭素や酸素など様々な原子を自由に組み替えて、新たな活性や機能を持つ分子を作ることです。独創的なアイデアで「分子をデザインする」ことは、絵画や彫刻などの芸術作品や建築物を創造することに似ています。遷移金属触媒反応では、「配位子」と呼ばれる金属と結びついてその働きを保護する分子が、触媒活性を制御する重要な役割を果たします。つまり画期的な配位子のデザインによって、独創的な新型高性能触媒を作り出すことができるのです。私たちはナノメートルスケールのポケットを持つ巨大な中空形有機リン配位子を設計し、その効率的な合成法を開発しました。このリン配位子と金からなる触媒は、ポケットの中で鎖状の長い分子をコンパクトな構造に折りたたむので、環状分子の合成には特に優れた機能を発揮します。これを利用することで、複雑な骨格を持つ生理活性天然有機化合物などを短段階で効率良く合成することができます。

[ 研究紹介へ戻る ]

キャビティー型配位子による反応空間制御

金(I)触媒アルキン環化反応

キャビティー型配位子による反応空間制御 金(I)触媒アルキン環化反応

リン原子の上方に非常に大きなキャビティーが形成されるリン配位子を設計合成しました。そして金触媒によるアルキンの環化反応に応用しました。アルキンの置換基がまっすぐ伸びると配位子の分子表面とぶつかってしまうので、これを避けるため折れ曲がった構造となります。この先にアルキンを攻撃する反応サイトがあれば反応点の近接効果により環化反応が加速します。このような反応設計指針に基づき、独自の中員環化合物合成法を開発しました。

金触媒存在下、アルキンに対し分子内のαケトエステルが付加し、環を形成する反応が知られています。しかし反応例のほとんどはエントロピー的に有利な5員環形成でした。また6員環形成反応においては、既存の触媒系では、ほとんど生成物を与えることなく触媒が失活します。これに対しキャビティー型リン配位子を用いると、定量的に環化生成物を与えます。既存の嵩高いホスフィン配位子ではまったく加速効果が得られません。つまり、キャビティー型反応空間における分子の折り畳みが決定的に重要です。

金(I)触媒アルキン環化反応の適用性

金(I)触媒アルキン環化反応の適用性  

立体障害のためにさらに反応性が低い内部アルキンも同様の6員環形成反応に利用できます。シリルエノールエーテルを反応点とする環化反応により7員環炭素骨格の形成が可能で、定量的、高立体選択的に進行します。また、スルホンアミドの窒素原子を反応させることで、含窒素7員環化合物の合成にも応用することができます。

[ 研究紹介へ戻る ]