大学院理学研究院  化学部門  液体化学研究室 武田研究室
LIQUID STATE CHEMISTRY
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研究紹介
「分子・原子・イオンや電子(スピン)のダイナミクスは物質が発現する機能や特性を支配しています」
現在、当研究室では、分子や原子が集合体となって初めて発現する機能・物性やダイナミクスの解明、及びその制御などの研究を進めており、有機物、金属錯体、無機結晶などの広い物質群を研究対象としています。
武田・丸田グループ(固体内での動的性質と機能)
(教員の退任に伴い、現在は保留中です)
武田・景山グループ(ソフトマターと自己組織化)
(現在の研究) 液体化学研究室のHP内で閲覧


固体内での動的性質と機能



例えば、
1. 金ナノ粒子や反強磁性体ナノ粒子の表面構造や磁気構造を微視的に解明し、また有機ナノ結晶を含む様々なナノ粒子内および表面の分子・原子の運動を多核固体NMRを用いて解明する研究
2. 温度変化で有機配位子と金属イオン間で電子移動を起こしスピン状態も変化する「セミキノン・カテコラートCo, Mn系」のスピン変換ダイナミクスと結晶中におけるその協同性、さらには金属イオンのスピン状態のみが変化するスピンクロスオーバー錯体結晶における動的性質の研究
3. Cu(II)イオンがつくるS=1/2一次元反強磁性鎖の量子効果や理想的な三角格子におけるスピンフラストレーションなど特異な磁性の研究
4. 分子磁性物質における電子スピン軌道の空間分布の実験的解明と磁気特性の基礎研究
5. 水素吸蔵金属錯体結晶中での水素分子の吸着メカニズム、動的挙動と量子効果の研究
6. プロトン移動や誘電特性の研究

などを研究しています。

また新規機能性物質などでは、X線結晶構造解析ができる程度の小さな結晶しか得られないものが多くあります。これらの物質の微視的視点での物性解明のために、μgオーダーの試料で単結晶NMR測定ができるように、NMRコイル直径が200〜500μmのマイクロコイルNMRの開発も行っています。

いくつかの研究例を下に示します。
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ナノ粒子表面
巨視的サイズの典型的な反強磁性体では、その電子スピンは打ち消され、表面の寄与は無視できます。しかしナノ粒子化すると粒子表面の残留スピンが磁性を支配しするようになります。



反強磁性転移温度75Kを示すND4MnF3の重水素化したアンモニウムイオンの4.2Kにおける固体重水素核NMRスペクトルを示します。(a)は200nm以上の巨視的結晶で、結晶構造をもとに計算したNMRスペクトルと一致します。(b)は 〜30nmの被覆なしのナノ粒子です。全体のスペクトル幅はアンモニウムイオンの重水素核位置にMn2+イオンの電子スピンがつくる内部磁場を表わしています。(b)のナノ粒子では○で囲った幅の狭い成分(強度は表面の割合と一致)を見出しました。これはナノ粒子表面近傍が磁気秩序を失っていることを示しています。

ポリマーでナノ粒子を被覆することにより20nm, 10nmのナノ粒子を合成することができます。10nmのナノ粒子になるとナノ粒子内部ももはや磁気秩序を示さなくなることも見出しました。また、あるサイズでのみ特異な磁気緩和現象が発言することも見出しました。

重水素化したカルボン酸チオールで被覆された3nmの金ナノ粒子のカルボン酸の水素結合状態を固体NMRスペクトルで調べることにも成功しました。
有機ナノ結晶にも挑戦しています。
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スピン変換ダイナミクス(原子価互変異性)
分子内で酸化還元活性な有機配位子をもつ磁性金属錯体の中には温度変化により分子内の酸化還元状態が変化(原子価互変異性現象)するものがあります。当研究室では、結晶中でのこの変換ダイナミクスに注目しています。

【図1】
図1にはベンゾキノン・コバルト錯体における分子内酸化還元(有機配位子と中心金属イオンの間のスピン状態変化を伴う電子移動)の模式図を示しています。ベンゾキノン(電荷:0、スピン:0)が一電子還元されたセミキノン(SQ、電荷:−1、スピン:1/2)と二電子還元されたカテコラート(Cat、電荷:−2、スピン:0)が可能で、結晶中で温度変化によりこれらが移り変わります。中心金属イオンの価数も変わります。
配位子であるSQとCatの13C-NMRスペクトルのシフトの温度変化を測定すると、スピン状態の移り変わりが解ります。
【図2】
図2は全温度領域でSQとCatが平均化された状態にあることを示しており、SQとCatおよびCoイオンの間に速い電子(スピン)交換が起こっていることが解ります。NMRシフトが急激に変化している温度領域は磁化率が大きく変化する温度領域と一致しています。この速度は結晶構造や配位子の置換基の位置によっても変わることが解ってきました。また、この変化が結晶中で一分子で起こるものと数分子がドメインを作って変化する(協同効果)ものがあります。
マンガン錯体でも同様の研究を行っています。
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分子磁性物質における電子スピン軌道の空間分布
開殻分子の半占有軌道の空間分布状態(電子スピンの非局在化)を知ることは、特異な磁性の解明や酵素活性中心(磁性金属イオンを含む)の電子移動メカニズムの解明にとっても重要です。

この半占有軌道の空間分布は量子化学計算で求めることができます。しかし、この量子化学計算がどれくらい正しいかを実験的に確かめる必要があります。

NMRは見たい核種H、CやNなどを選び別々に観測することができ、また同位体ラベルすることにより同じ炭素原子でも特定の位置だけ観測することができます。このNMRシフトの情報から、電子スピンと核スピンの相互作用で敏感に変化する超微細結合定数を分子内の各原子位置で決定することができます。量子化学計算で求めた超微細結合定数の値とNMRで求めた値とを比較することにより、実験的に磁気物性などの解明を行うとともに、量子化学計算の信頼性をチェックすることができます。

固体状態で発現する様々な磁性、磁気的相互作用を、微視的には固体NMRで、巨視的には磁化率測定により調べています。

【図1】 【図2】

図1は酵素にとっても重要なCu-NやCu-S結合を持つ化合物です。この化合物の結晶状態で、1H, 部分重水素化した物質の2H, 13C, および15N核の高速マジック角回転NMRスペクトルにより各原子上の超微細結合定数を決定しました。この値は量子化学計算(密度汎関数法)により計算した値と±の符号も含めて良く一致しており、図2に示した半占有軌道の空間分布状態が信頼できると考えられます。
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水素吸蔵金属錯体に取り込まれた水素分子の挙動
近年、地球温暖化問題でも取り上げられる燃料電池にとって重要な「水素ガス」貯蔵物質の開発が盛んに行われている。
水素を分子として吸蔵するポリマー型金属錯体がいくつか知られている。

図(CrystEngComm, 2005, 7, 476ミ479より転載)に示した化合物は、横浜市立大学の高見澤准教授により開発された物質であるが、黄色で示したように水素分子を吸蔵する。この物質をはじめとして、一連のポリマー型金属錯体物質に水素を吸蔵させ、固体NMRを用いて吸蔵された水素分子の吸着状態、ホスト格子との相互作用、運動状態、量子性などを液体ヘリウム温度(4.2K)から室温の間で調べている。
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マイクロコイルNMR
通常の固体NMR測定に用いるコイル(コイル直径は約5mm、試料は少なくとも数十mg程度)に数百μgの試料を入れても信号は観測できませんが、NMRコイルの大きさを試料にあわせて小さくすると検出感度をある程度回復でき、また磁性物質などが示す広い周波数領域の信号を観測できるようになります。原理は古くから知られていました。現在いくつかのグループが研究を進めています。

当研究室では、現在磁性物質の単結晶をターゲットにしていますが、これから他の物質系へも展開していく予定です。

【図1】
太さ300μmのガラスキャピラリーに入れた[CuCl2(pyrazine)2]nの単結晶、コイル径は内径400μm

【図2】
共鳴周波数46MHz (磁場7T)で測定した約100ナノリットルの単結晶の重水素核NMRスペクトル(室温で積算10時間)

図はスピン1/2の一次元Cu(II)磁性鎖を持つ[CuCl2(pyrazine-d10)2]nのpyrazineを重水素化した単結晶(0.21×0.30×1.8mm)のシフト範囲±3000ppm以上に及ぶ固体重水素核NMRスペクトルの測定結果を示します。室温でわずか数十分の積算でも予測されるすべての信号を十分解析できる程度の信号として検出することができました。図2はさらに積算時間を増やしてきれいにしたものです。
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