雑誌論文
分子集合体の中や周りの水の熱運動の計測
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Measurement of water dynamics
水中における分子集合体を取り囲む水の運動性を測定する物理化学的計測技術を、有機化学的アプローチにより発展させた研究です。
水中に分散している同一の試料(コロイド)に対して、その試料内の異なる二箇所での水分子の並進運動速度を定量的に比較することができるようになりました。
Site-selective spin-probe with a photocleavable macrocyclic linker for measuring the dynamics of water surrounding a liposomal assembly
Gyeorye Lee, Yoshiyuki Kageyama, Sadamu Takeda
Bull. Chem. Soc. Jpn., 2022, 95, 909–921.
屈曲型の運動を繰り返す結晶の自律遊泳:時空間自己組織化
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Mobile Microrobot !
「泳ぐ」分子ロボット
これまで報告されてきた、「泳がされる」分子ロボットとは違います。ボディーを曲げる動きを自ら続けることで、動物のように泳ぎます。
非生命体が動き続けることの難しさに加え、1 mmよりも小さいモノは、体をフリップさせて泳ぐことは極めて難しいということが知られている中で、それを実現しました。
Self-propulsion of a light-powered microscopic crystalline flapper in water
Kazuma Obara, Yoshiyuki Kageyama, Sadamu Takeda
Small, 2022, 18, 202105302.
北海道大学からのプレスリリース (日本語)
北海道大学からのプレスリリース (英語)
有機化学的視点から見た散逸自己組織化
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Robust Dynamics of Synthetic Molecular Systems as A Consequence of Broken Symmetry
Yoshiyuki Kageyama
Symmetry, 2020, 12, 1688 (15-pages).
分子システムとしての散逸自己組織化を狙っている、私の研究の背景について説明した解説論文です。なぜ散逸自己組織化が必要なのか、どのような要素によって実現できるのか、具体的にはどんな研究で実現したのか、を説明しています。なお、散逸自己組織化は1970年代には確立された概念であるので、最初の二点については、旧来の説明を「分かり易い形で」表現しただけです。分かりやすさ重視のため、詳細説明を避けているところがあります。最終節では、従来の学理を誤認した最近のファッション研究に対して、不足点があることを注意喚起をしています。
かつてハゲタカジャーナルと指摘された出版社ですが、費用負担なしで掲載して頂きました。
屈曲型の運動を繰り返す結晶の構造と光応答特性:時空間自己組織化
Light‐driven flipping of azobenzene assemblies ― sparse crystal structures and responsive behavior to polarized light
Yoshiyuki Kageyama Tomonori Ikegami Shinnosuke Satonaga Kazuma Obara Hiroyasu Sato Sadamu Takeda
Chem. Eur. J. 2020, 26(47) 10759–10768.
光で駆動するアゾベンゼン分子集合体のフリップ運動 ― 柔らかい結晶構造と、偏光に応答する挙動
光に含まれている情報に依存した継続運動を報告。「生命の本質」といわれる、時空間自己組織化現象の結果として実現した研究です。外部からの情報で、結晶の運動様式が変わります。
北海道大学からのプレスリリース (日本語)
北海道大学からのプレスリリース (英語)
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光異性化分子を用いた自律運動材料と、そこに働く「時間遅れ」の概念
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Light-Powered Self-Sustainable Macroscopic Motion for the Active Locomotion of Materials
Yoshiyuki Kageyama
ChemPhotoChem, 2019, 3(6), 327–336.
顕著な非線形性を有する現象/時間遅れを含む現象を有する現象を組み合わせれば、自律的に継続駆動する材料を創出することができることを、極めてシンプルに著述した総説。数式やグラフは表計算ソフトで数値解析できるようなものだけ記載しています。式では簡単に著述できても、物質で表現することは、まだまだチャレンジングな課題。だからこそ、私達は化学的手法で自律駆動する物質の創出を常々目指しています。
屈曲型の運動を繰り返す結晶の実現:時空間自己組織化
Dissipative and Autonomous Square-Wave Self-Oscillation of a Macroscopic Hybrid Self-Assembly under Continuous Light Irradiation
Tomonori Ikegami, Yoshiyuki Kageyama, Kazuma Obara, and Sadamu Takeda,
Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55(29) 8239–8243.
定常光照射下で発現する巨視的複合分子集合体の散逸的かつ自律的な矩形波自励振動運動
「生命の本質」といわれる、時空間自己組織化現象を、化学物質で実現した研究。
北海道大学からのプレスリリース (日本語)
北海道大学からのプレスリリース (英語)
Angewandte Chemieからのプレスリリース (英語)
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詳細説明を覗く
詳説:巨視的な自律運動の実現について:分子モーターと、力学的な仕事をするということ、の関係
●何が凄いのか? 何が重要なのか?:マイクロメートルスケールの大きな動きを続ける材料を作った点
この研究が出版された数カ月後、「分子マシンの設計と合成」の研究に対して、ノーベル化学賞が与えられました。ナノメートルというとても小さい分子が、機械のように構造を変えるという点が、これらの研究のポイントです。特に「分子モーター」は、動き続けることができる機械として注目されました。一方で、これらの分子が、機械のように働くか、と問われると、簡単な話ではなくなります。そのことは、小人が巨人を動かせられるのか、ということをイメージすれば分かっていただけると思います。なお、「働く」とは中学校の理科で教わる通り「エネルギー変換をする」ということです。また、「一回きりの使い捨て」的なエネルギー変換(例:使い捨てカイロ)ではなく、エンジンやモーターが燃料を運動エネルギーに変えるような、継続的にエネルギー変換するものを意図しています。
実際に働く分子マシンを作ろうと思うと、大きな分子マシンを作る、あるいは分子マシンを集めて大きくする、ということが考えられます。私たちは、後者の、分子マシンを集めて大きくする研究をしています。
しかし、機械のように動く分子を単に集めただけでは、働かなくなってしまう、ということが知られています(熱力学第二法則)。これに対して、この研究では、分子を集めて束ねているにもかかわらず、動き続ける現象を実現しました。
●何が実現のための鍵だったの?
「光異性化反応」と、それに引き続いて起こる「相転移」とを組み合わせることができた点です。
●似た研究との違いは?
(1) 「刺激応答性材料」といわれる種々の材料があります。これらは、環境変化に応じて材料の形状が変わります(そういう意味で「刺激応答性材料」という命名は学術的には微妙です)。ゆえに、動かし続けるためには、環境変化を繰り返し行う必要があります。これに対し、私たちの研究は、定常的な環境で動き続けることができます。
(2) 生体内にある分子を利用するならば、動き続けるものを作ることができます。有機合成でつくった小さな分子で動き続ける現象を実現したことで、産業的な魅力が高まります。
超分子ダイナミクス
Mechanism of Macroscopic Motion of Oleate Helical Assemblies: Cooperative Deprotonation of Carboxyl Groups, Triggered by Photoisomerization of Azobenzene Derivatives
Yoshiyuki Kageyama, Tomonori Ikegami, Yuta Kurokome, and Sadamu Takeda
Chem. Eur. J. 2016, 22, 8669–8675.
らせん状分子集合体の巨視的運動のメカニズム:
アゾベンゼン光異性化によって誘発される協同的脱プロトン化
光学顕微鏡を用いて肉眼で見ることのできるらせん状分子集合体の回転運動(2013年に報告)について、その機構を調べた結果を報告。「光異性化分子が異性化すると、その後、分子集合体を構成する分子の脱プロトン化が起こる」という協同効果によって、分子集合体の運動が起きている、という機構を提案している。
一つの分子における光誘起型酸解離現象はよく知られた現象である。一方、本研究のような複合分子系における協同的光誘起型酸解離現象は(生体分子の研究例を除いて)あまり知られていない。
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自己集積
Structure and Growth Behavior of Centimeter-Sized Helical Oleate Assemblies Formed with Assistance of Medium-Length Carboxylic Acids
Yoshiyuki Kageyama, Tomonori Ikegami, Natsuko Hiramatsu, Sadamu Takeda, and Tadashi Sugawara
Soft Matter 2015, 11, 3550–3558.
この研究では、オレイン酸が自己集積しらせん状集合体を形成するときの、少量添加した小さな両親媒性分子の役割について検討した。小さな両親媒性分子が、分子集合体の成長を触媒していることが判明した。「結晶成長」の研究は長い歴史を有している一方で、この論文のような「柔らかい分子集合体の成長」についての科学は、まだ始まって間もない。
雑誌の背表紙を飾りました。
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共同研究:自己集積
Formation of Monodisperse Hierarchical Lipid Particles Utilizing Microfluidic Droplets in a Nonequilibrium State
Masahiro Mizuno, Taro Toyota, Miki Konishi, Yoshiyuki Kageyama, Masumi Yamada, and Minoru Seki, Langmuir 2015, 31, 2334–2341.
共同研究:水分子のダイナミクス
Intrinsic Surface-Drying Properties of Bio-adhesive Proteins
Yasar Akdogan, Wei Wei, Kuo-Ying Huang, Yoshiyuki Kageyama, Eric W. Danner, Dusty R. Miller, Nadine R. Martinez Rodriguez, J. Herbert Waite, and Songi Han, Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 11253–11256.
UCSBへの短期留学中の共同研究成果。動的核分極NMRと、ESR線形解析から、イガイ(ムール貝)の「接着」に際しての水和挙動について検討した論文。
Nature Materials Reserch Highlightsの囲み記事として取り上げられました。(Alison Stoddart, Nature Materials, 2014, 13, 915.)
超分子ダイナミクス
Macroscopic Motion of Supramolecular Assemblies Actuated by Photoisomerization of Azobenzene Derivatives
Yoshiyuki Kageyama, Naruho Tanigake, Yuta Kurokome, Sachiko Iwaki, Sadamu Takeda, Kentaro Suzuki, and Tadashi Sugawara,
Chem. Commun., 2013, 49, 9386–9388.
オレイン酸とアゾベンゼン誘導体を混合した分子集合体の、光誘起型の運動についての速報。続報の論文にて、メカニズムを報告している。
雑誌の背表紙を飾りました。
ChemCommBlogにてHot Articleに採択。ChemSpiderBlogにもピックアップされる。
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後続の報文へ
人工細胞モデル・ベシクル内PCR
Compartment Size Dependence of Performance of Polymerase Chain Reaction inside Giant Vesicle
Koh-ichiroh Shohda, Mieko Tamura, Yoshiyuki Kageyama, Kentaro Suzuki, Akira Suyama, and Tadashi Sugawara Soft Matter 2011, 7, 3750–3753.
リン脂質ジャイアントベシクル内で、DNAの複製反応(ポリメラーゼ・チェイン反応:PCR反応)を行った研究。ジャイアントベシクルの容量はとても小さいため、PCR反応の効率に不均一性が生じる。そのことなども検討している。
この研究より先に、P. L. Luisiらによるリン脂質スモールベシクル(容量はさらに小さい)内でのPCR反応が報告されている。また、本研究に引き続き、自己生産型人工分子ベシクル内でのPCR反応などの研究が展開された。
人工細胞モデル・自触媒ベシクル自己生産
Autocatalytic membrane-amplification on a pre-existing vesicular surface
Hiroshi Takahashi, Yoshiyuki Kageyama, Kensuke Kurihara, Katsuto Takakura, Shigeru Murata, and Tadashi Sugawara, Chem. Commun. 2010, 46, 8791–8793.
自己生産するベシクルに、自触媒反応性を持たせた研究。
アニオン性ベシクル界面近傍の、局所的な酸性によって、人工膜分子前駆体を加水分解し、アニオン性の膜分子を生成する反応を行わせることで、自触媒反応で増殖するベシクル生産系を構築した。なお、オレイン酸・無水オレイン酸系で、P.L.Luisiらのグループも自触媒反応性を確認している。この研究の後、アメリカのグループでも、化学的な分子設計で、自触媒反応で増殖するベシクル自己生産系を創出している。