根岸雄一教授(東京理科大)との共同研究により、ハロゲン架橋された Ag 超原子分子の合成とその形成要因の解明に成功(プレス発表)
東京理科大学研究推進機構総合研究院の Sakiat Hossain 助教、同大学理学部第一部応用化学科の根岸雄一教授、北海道大学大学院理学研究院の岩佐豪助教、武次徹也教授らの共同研究グループは、銀(Ag)の一部を白金(Pt)やパラジウム(Pd)で置換した新たな超原子分子を合成し、これらの電子的、構造的特徴を解明することに成功しました。また、Ag をベースとした超原子分子を安定的に得るために鍵となる 3 つの要因を見出しました。
超原子分子とは、金(Au)や Ag などの貴金属元素が複数個集まってできる約 1nm の大きさを持った超原子(人工原子)よりなる分子です。超原子分子は、従来の物質とは異なる物理化学的性質を持つ可能性を秘めています。特に、Ag をベースとした超原子分子については、量子収率の高いフォトルミネッセンスや二酸化炭素の還元に対する選択的触媒活性など、有用な特性を有することが知られています。しかしながら、Ag ベースの超原子分子に関する報告例は極めて少なく、構造や電子状態、安定性に関する情報がほとんどありませんでした。そこで、本研究グループは Ag13-xMx(M = Ag もしくは他の金属、x = M で置換した個数)ナノクラスターに注目し、ハロゲン配位子で架橋することで安定化した Ag 超原子分子の合成を行い、その性質について検討を行いました。
本研究では、Ag13-xMxを中心骨格に有する 2 種類の超原子分子[Ag23Pt2(PPh3)10Br7](化合物 0 ③)、[Ag23Pd2(PPh3)10Br7]0(化合物④)(PPh =トリフェニルホスフィン)を新たに合成し、その構造や電子状態を調べるための各種分析を行いました。また、既報の化合物[Ag23Pt2(PPh3)10Cl7]0(化合物①)、[Ag23Pd2(PPh3)10Cl7]0(化合物②)と比較することで、Ag 超原子分子形成に不可欠な要因について検討を行いました。その結果、超原子分子の形成と単離を実現するためには、以下の 3 つの条件を満たす必要があるということがわかりました。
1) 2 つの Ag13-xMx 骨格間の距離を適度に維持できる大きさのハロゲン配位子を架橋に使用すること。
2) Ag を他の金属原子で置換することにより、Ag13 より強固な二十面体骨格を形成すること。
3) カチオン性または中性では、価電子数の合計が 16 となるように構成すること。
これらの知見は、さまざまな性質を有する超原子分子を設計・構築する上で、非常に有用であるといえます。そのため、本研究をさらに発展させることで、従来とは異なる新たな機能を有する物質の創製に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年3月28日に国際学術誌「Communications Chemistry」にオンライン掲載されました。
論文名:Key factors for connecting silver-based icosahedral superatoms by vertex sharing
URL:https://www.nature.com/articles/s42004-023-00854-0
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