シート型顕微鏡とAuクラスター融合による血管ゲート観察

 私たちは、2012年に重力刺激が、最大の抗重力筋であるヒラメ筋に分布する第5腰髄(L5)横の後根神経節の感覚神経の活性化を引き起こし、近傍の交感神経節の神経細胞の活性化を介してL5背側血管周囲にノルアドレナリン(NA)を分泌すること、さらに、NAを受けた当該血管部は透過性上昇から血中の自己反応性CD4+T細胞の組織侵入口(血管ゲート)が形成され、組織特異的な自己免疫疾患を誘導することを「ゲートウェイ反射」として発表しました(Arima et al., Cell 2021)。その後、痛み、ストレス、光、炎症などのさまざまな環境刺激、さらに人為的な筋肉からの電気刺激でも別の特定神経回路を活性化して、別の血管部位に血管ゲートを形成し、組織特異的な自己免疫疾患病態が生じることを示してきました(Arima et al., eLife 2015, 2017, Andrea et al., Sci Rep 2019, Murakami et al., Immunity 2019, Hasebe et al., JEM 2022)。また、2019年には重力ゲートウェイ反射の証明のためにJAXA、NASAと共同研究を実施して世界ではじめて疾患モデルマウスを国際宇宙ステーションに送る宇宙実験を実施しました。

 今回、最先端顕微鏡である光シート型顕微鏡を用いた血管ゲートの詳細な検討を鮮明にかつ簡便にするために地球環境科学研究院の小西克明先生、七分勇勝先生と本概算要求事業の枠組みを起点に共同研究を実施しています。これまで小西先生らによって、環境汚染物質の分解触媒、除去・分離材料、高感度センシングを志向したナノ物質として、有機化合物とナノ金属微粒子から組み上げた種々のAuクラスター群が開発され研究が進んできました(Shichibu et al, Chem. Commun., 2012, Shichibu et al, Nanoscale, 2012, Sugiuchi et al, J. Am. Chem. Soc. 2017, Sugiuchi et al, Angew. Chem. Int. Ed., 2018)。今回の共同研究では、蛍光性Auクラスターを血管ゲート形成のトレーサーとして使用できないかを検討するものでした。中枢神経系抗原であるミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(MOG)を認識する自己反応性CD4+T細胞をC57BL6マウスに静脈内投与すると重力ゲートウェイ反射の誘導から第5腰髄背側血管部から中枢炎症が誘導され、2週間ほどで尾部および後肢の麻痺を主調とする病態が観察できました。この病態が形成される前の無症状の時期(T細胞移入後5日目ほど)に、Auクラスターを静脈内に投与し、腰髄部を組織透明化、光シート型顕微鏡で観察しました。その結果、超早期の病態形成である血管ゲートをAuクラスターの分布として観察できました(下図、ピンク蛍光)。

 今後は、別のAuクラスターも用いて実験を行って、生体内でのAuクラスターのスペクトルや蛍光寿命な変化を物理化学的なアプローチにて検出すること、Auクラスターにナノダイヤモンドセンサーを結合させて、病態の形成と血管ゲート周囲の温度、pH、電荷などの変化の関係を詳細に検討することなどを実施する予定です。

Auクラスターの分布で観察された血管ゲート