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最近の研究結果
クロム(III)錯体配位子を用いたレドックス活性な配位高分子
レドックス活性な配位高分子はエレクトロニック材料やゲスト選択的な吸着材料への応用が期待されています。今回、配位子中心のレドックス能を有するCr(III)メルカプトフェノラト錯体配位子の対イオンとしてカリウムイオンを導入することでハニカム型配位高分子の合成に成功するとともに、これが固体状態においてもアニオンの吸脱着に伴うレドックス能を示すことを明らかにしました。
置換活性部位を導入した銅(I)錯体の配位子置換による発光チューニング
蒸気による速やかな配位子置換と発光色変換を狙い、配位力の弱いTHF配位子を導入した発光性銅(I)錯体を合成しました。これに対してN-ヘテロ芳香族分子の蒸気を曝露したところ、THF配位子との配位子置換が進行し最大で134 nmもの発光の長波長シフトがみられました。また、この錯体は熱活性型遅延蛍光を示すことも示唆されました。
N-ヘテロ芳香族蒸気による強発光性銅(I)錯体の発光色変換
発光性ハロゲン化銅(I)錯体の発光色は、配位しているN-ヘテロ芳香環のLUMOに強く依存することが知られています。そこで、当研究室で見出した強発光性銅(I)錯体に対しさまざまなN-ヘテロ芳香族分子の蒸気を曝露することで、固相における配位子置換を進行させ発光色を青色から緑、黄色、赤色へと大きく変化させることに成功しました。
わずかな立体障害の差による銅(I)複核錯体の発光強度の顕著な変化
強発光性の銅(I)錯体を開発する上で、その発光量子収率を低下させる要因の特定は重要な課題です。今回、非常に類似した構造をもつ2種類の銅(I)複核錯体についてその発光挙動を調査した結果、片方の銅(I)イオンに配位していたアセトニトリルを水へと置換するだけで劇的な発光量子収率の低下がみられ、このわずかな立体障害の差でも励起状態における構造歪みの抑制に大きな影響を及ぼしていることが判明しました。
イオン伝導性とベイポクロミック発光性を併せもつPCPの系統的合成
発光性ルテニウム(II)錯体配位子と3種類の希土類イオンからなる多孔性配位高分子(PCP)を合成しました。この多孔質構造の安定性が架橋金属イオンのイオン半径に由来するため、イオン伝導の活性化エネルギーやベイポクロミック発光の変化の領域に架橋金属イオン依存性が見出されました。また、Nd3+イオンを用いたPCPではルテニウム錯体配位子からNd3+イオンへのエネルギー移動を観測しました。
蒸気で色と磁性を同時に変えるニッケル(II)錯体
平面四角形型では反磁性、八面体型では常磁性を示すニッケル(II)の性質を利用して、蒸気曝露による色と磁性のスイッチングを試みました。具体的には、平面四角形型のニッケル(II)錯体に対してメタノール蒸気を曝露することで、メタノールが軸位に配位した八面体型の錯体へと可逆的に変換することに成功し、それに伴って錯体の色と磁性とを同時にスイッチングすることができました。
CdSe量子ドットの表面保護配位子が光触媒能に与える影響
CdSeナノ結晶(量子ドット)は強発光や光電子移動能を示すことから光水素発生に多く用いられています。量子ドットの表面は粒径維持や分散性の確保のために表面保護配位子で覆われていますが、この表面保護配位子が水素発生に及ぼす影響については議論されてきませんでした。実際に3種類の配位子を用いて比べてみたところ配位子によって溶液内での凝集状態が顕著に変化し、それに応じて水素発生効率の向上がみられました。
PCPの結晶サイズ縮小と、その次元性に依存したゲスト応答挙動の変化
ルテニウム(II)錯体配位子からなる2種類の多孔性配位高分子(PCP)に対して、結晶サイズの縮小が与える効果を検討しました。このうち、二次元シート構造をもつPCPではメゾサイズの結晶においてもバルク結晶と同様にゲスト分子の吸脱着に伴う非細孔構造への転移がみられたのに対し、三次元格子構造をもつPCPではバルク結晶と異なりゲスト分子の脱着後にも細孔を保っていることが判明しました。
プロトン着脱による白金(II)錯体のベイポクロミック挙動のスイッチング
カルボキシル基を有する白金(II)錯体が、プロトンの着脱に伴いそのベイポクロミック特性を大きくスイッチングできることを見出しました。この錯体はプロトン化された状態では親水性が高いのに対し、脱プロトン化することで疎水性が向上し、それに伴って水蒸気や有機溶媒蒸気への応答性が顕著に変化します。また、このプロトン着脱は錯体の粉末に直接酸・塩基蒸気を曝露するだけで可逆的に行うことができます。
キノノイド型両座配位子への金属の配位による共役系の段階的変化
12π電子系をもったキノノイド型両座配位子に対し、段階的に金属イオンを配位させることで共役系へ与える影響を比較しました。具体的には、この配位子をもつ白金(II)単核錯体に対して新たに白金(II)やパラジウム(II)を配位させたところ、配位子の電子系が芳香族性を帯びるとともに配位子内遷移にともなう吸収が大きく変化し、カラフルな色の変化をみせました。