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最近の研究結果

疎水性Ru色素を活用した脂質二分子膜担持光水素生成系の構築

 

 

光触媒の溶媒に対する分散性は触媒活性を左右する重要因子ですが、それを自在に制御する方法は乏しいのが現状です。本研究ではこの問題を打破するべく、光増感剤として有名なRu(II)錯体に疎水性アルキル鎖を4本導入し、酸化チタンナノ粒子表面へ担持させました。この疎水性光触媒ナノ粒子は水に対する分散性が乏しいものの、両親媒性脂質二分子膜(ベシクル)と組み合わせることで劇的に分散性が向上し、光触媒活性も3倍以上にも向上することを見出しました。本成果は光触媒活性を向上させる表面改質法の基礎的知見を与えるとともに、疎水性を活用した光触媒インクの創出にもつながる貴重な成果と位置付けできます。

すりつぶしによって光りながら色を変化させる白金錯体の創出

 

 

NHC配位子を有する強発光性Pt(II)錯体を新たに合成し、すり潰しという単純な刺激によって発光する挙動(=トリボルミネッセンス)を示すことを見出しました。興味深いことに、合成したPt(II)錯体のトリボルミネッセンス現象ではすりつぶしによって光るだけでなく、その発光色も同時に変化すること(=メカノクロミズム)を見出し、すり潰しによって結晶構造が変化しながら発光するという極めて珍しい現象を示す例であることがわかりました。

透明電子伝達剤を付与した光レドックスカスケード触媒による水素生成反応

 

 

2段階励起型水分解光触媒系では、電子伝達剤との一方向的電子移動の実現が重要です。本研究では光触媒表面と可視光を透過させながら電子移動を橋渡しするヘキサシアニドRu(II)錯体(HCRu)をRu色素二層化光触媒ナノ粒子表面へ担持し、Co(bpy)3錯体を電子源とした光水素発生反応を検討しました。その結果、HCRu担持により活性は2倍以上に増強され、酸化チタンナノ粒子光触媒系では世界最高活性を示すことを見出しました。同時にCo(bpy)3錯体を天然光合成系で広く使われるヒドロキノン系電子伝達剤に置き換えても高い活性を維持することもわかりました。

弾性変形する強発光性Pt(II)錯体

 

 

異なる二種類のシクロメタレート型Pt(II)錯体を共結晶化することで、外力によって生じた変形が外力をなくしたときにもとに戻る”弾性”と、極めて高い発光量子収率(94%)を併せ持つ新しい分子性結晶の創出に成功しました。結晶構造変化に極めて敏感に応答するPt(II)錯体系でこのような性質を示す例は少なく、応力に鋭敏に応答する光センサー等の開発につながるものと期待できます。

ポリオキソメタレートを電子源としたRu色素複層化光触媒による水素生成反応

 

 

2段階励起型光水分解触媒系では、電子伝達剤との高い反応性の実現が課題となっています。そこで光触媒表面と強い相互作用を形成可能なポリオキソメタレート種を酸化還元可逆な電子源として用いたところ、反応系中でポリオキソメタレート種が光触媒に補足されるユニークな現象を見出しました。その結果、可視光をほとんど吸収しないMn系では非常に希薄な電子源条件でも一方向的に酸化し尽くすまで光駆動させることに成功しました。

Ru(II)-ピコリン酸錯体による赤色光増感水素生成光触媒反応

 

 

太陽光による水分解反応の実用化には太陽光に多く含まれる赤色光の有効利用が必要不可欠です。本系では安定なキレート環を形成しつつ、比較的弱い配位子場を与えるピコリン酸配位子を導入したRu(II)錯体を新規に合成し、Pt担持TiO2ナノ粒子へ担持することで、赤色光照射によって水素を高活性かつ安定的に発生させる系の構築に成功しました。ピコリン酸配位子の誘導体を用いればさらなる吸収波長域の拡大なども可能と見込まれ、今後のさらなる発展が期待できる成果と言えます。

Ru(II)増感色素多層化光触媒の表面への金属イオン固定化による活性向上

 

 

2段階励起型の光水分解反応では、より長波長側の光利用と電子伝達剤との高い反応性が必要です。本系では光水還元系において、色素増感層の表面に固定化する金属イオン種依存性を調査しました。その結果、酸化還元不活性な3価または4価の金属イオンを固定化した系は、固定化していない系に比べて高い活性を示し、色素の吸収端でも高効率に光駆動できることが分かりました。

複層化したRu(II)増感色素と水素生成触媒ポリマーとが連動する光電極の作成

 

 

Ru(II)色素の逐次積層法と水素生成触媒ポリマーの気相蒸着法を組み合わせることで、増感色素とポリマー触媒が連動する新しい水素生成光電極の構築に成功しました。ポリマー触媒の被覆と色素層の複層化の相乗効果によって、光電極の耐久性が大幅に改善できることがわかり、水素生成光電極の低コストプロセス化と高耐久化に資する重要な知見になると期待されます。

Ru(II)色素と正孔輸送剤、酸素生成触媒を逐次積層した光電極の作成

 

 

Ru(II)色素と正孔輸送剤として機能するプルシアンホワイト類縁体、さらに酸素生成触媒として機能するプルシアンブルー類縁体を、逐次積層法により光電極として集積させることに成功しました。各種光電気化学測定により色素層-正孔輸送層を介した酸素生成反応が駆動することがわかり、今後のさらなる高活性化に向けた重要な知見が得られました。

強発光性白金(II)錯体の多段階単結晶ー単結晶相転移とベイポクロミズム

 

 

強発光性を示す白金(II)錯体に対して蒸気応答性を検討したところ、単結晶性を維持したまま水分子の吸脱着(単結晶-単結晶構造転移)が起き構造変化に対応し、発光色が青色から黄緑色に可逆的に変化しました。また、in-situ 単結晶X線回折により水蒸気吸着が二段階で起きていること及び中間体の結晶構造についても明らかにしました。

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